東京大学の全学的ミッションの一つであり、人類の共有財産である地球システムをよりよく管理するためのメカニズム構築を目的とした国際共同研究「グローバル・コモンズ・スチュワードシップ(GCS)・イニシアティブ」の成果として、米国イェール大学との共著論文を発表しました。
グローバリゼーションの拡大と深化に伴い、アジア・アフリカなどの発展途上国と中国との間の貿易は、二国間の経済発展を後押しする一方、中国内外の水ストレスを悪化させているという懸念があります。このような中国で増大する水ストレスを緩和するための効果的な戦略を立案するには、消費と生産がどのように水ストレスフットプリント(WSF)を引き起こすかについて、高解像度かつ複数の時空間スケールで理解することが必要です。しかしながら、現在の中国の多地域産業連関モデル(CMRIO)では限界があります。そこで本研究では中国の31省、163の産業部門をカバーする高解像度の国際MRIOモデルを新たに構築し、中国の省間および国際的な貿易構造の変化がWSFに与える影響を2012〜2017年を対象に分析しました。
その結果、中国内の省間貿易による水ストレスは年々増加し、2017年には5,606 km3 H2O-eqとなり、フットプリント全体の50 %を超えることが分かりました。また中国は2017年に水ストレスの純輸出国に転換し、輸出全体の54 %が途上国への水ストレス輸出を占め、2012年の51 %から上昇したことを明らかにしました。
地域の水ストレスを効果的に緩和するための行動の優先順位を決めるために、水ストレス消費についてホットスポットを明示しました。
論文タイトル
Global spatio-temporal change assessment in interregional water stress footprint in China by a high resolution MRIO model
共同研究者
赵 晗(Zhao Han)東京大学 大学院工学系研究科 博士課程2年
T. Reed Miller 米国イェール大学 環境学部 博士研究員
石井菜穂子 東京大学 未来ビジョン研究センター教授 / グローバル・コモンズ・センター ダイレクター
川崎昭如 東京大学 未来ビジョン研究所センター 教授
ジャーナル
Science of The Total Environment 841 (2022)
https://doi.org/10.1016/j.scitotenv.2022.156682
Abstract 全文
中国の増大する水ストレスを緩和するための効果的な戦略を立案するには、消費と生産がどのように水ストレスフットプリント(WSF)を引き起こすかについて、高解像度かつ複数の時空間スケールで理解することが必要である。しかし、現在の中国の多地域産業連関モデル(CMRIO)は解像度が限られている。この問題解決に向けて、本研究では中国の31省、163の産業部門をカバーする高解像度の国際MRIOモデルを新たに構築し、中国の省間および国際的な貿易構造の変化がWSFに与える影響を2012〜2017年を対象に分析した。
その結果、中国内の省間貿易による水ストレスは年々増加し、2017年には5,606 km3 H2O-eqとなり、国内フットプリント全体の50 %を超えることが判明した。具体的には、国内の水ストレスの移転は、東部沿岸地域から中部・西部地域へのアウトソーシングにおいて最も顕著であり、地域間サプライチェーンの上位経路は主に米やタバコ製品の加工需要に関連している。中国は2017年に水ストレスの純輸出国に転換し、発展途上国への水ストレス輸出は輸出全体の54 %を占め、2012年の51 %から上昇した。グローバル化の拡大と深化に伴い、中国と発展途上国との間の貿易は二国間の経済発展を後押しする一方、中国の水ストレスを悪化させている。農作物の栽培に加え、国際的な産業に合わせて輸出されるプラスチックや鉄鋼などの工業製品も、中国北部の水ストレスをさらに高める要因となっている。地域の水ストレスを効果的に緩和するための行動の優先順位を決めるためには、水ストレス消費のホットスポットを特定する必要があり、本研究はその鍵となる情報を提供している。