”Planet Positive Chemicals”の発表

4℃の地球温暖化を回避するためには、世界の化学産業は経営を劇的に転換させる必要があるとの研究報告書を発表いたしました

 

  • 世界の化学産業が年間生産量を倍増させ、2,900万人の新規雇用を創出し、かつサステナブルな世界経済に貢献するための道筋を本報告書では示しています。
  • 加えて、世界の化学産業は2040年代前半までにネットゼロを達成し、2050年には温室効果ガスの吸収源となり、気候変動問題の救済者として生まれ変わることも可能です。
  • 一方で、劇的な転換を早急に実現しなければ、世界の化学産業は地球温暖化を4℃進める道筋に乗り、地球に壊滅的な影響を与えます。
  • 循環型のネットゼロ化学産業を構築するには、2050年までに世界で約3兆ドルの累積設備投資が必要です。

世界の化学産業からの温室効果ガス(GHG)排出量は、世界全体の約 4%を占めています。システム転換を提唱するSystemiq社と東京大学のグローバル・コモンズ・センターは、本報告書において、化学産業は化石原料への依存をやめ、より循環的でGHG排出の低い事業モデルを採用することによって、地球環境にプラスの影響を与える存在にならなければならないと述べています。その上で、早急に対策を講じなければ、化学産業は風評リスクや規制リスクに直面し、社会的に事業継続が許されなくなる可能性さえあると警告しています。

今回の報告書「Planet Positive Chemicals」 では、世界の化学産業は現在、GHG排出や汚染など多方面で地球に悪影響を及ぼしており、気候変動に関する対策は他の業界に比べて遅れているとしています。その一方で、4.7兆ドルの年間売上(注1)を持ち、包装材料・消費財から建設・肥料に至るまで経済のあらゆる分野に不可欠な化学製品を供給する世界の化学産業について、新たな将来像を提示しています。

今回の報告書では、化学産業がプラネタリ・バウンダリーズ(注2)の範囲内で活動を続けるためには、化学製品の供給側と需要側の双方において抜本的な転換が必要であることを明らかにしています。主な内容は以下の通りです。

  • 化学製品はほぼすべての川下産業で使用されています。バリューチェーン全体での化学製品によるGHG排出を低減しなければ、他の業界はネットゼロを実現できません。
  • サステナブルな世界経済を実現するためには、サステナブルな船舶燃料用等のアンモニア(440%増)や、化石資源を使わずにプラスチックを作るためのメタノール(330%増)の需要急増等により、2050 年までに化学製品の生産量を現在から倍増させる必要があります。
  • この成長を実現するには、二酸化炭素回収・貯留技術(CCS)等、いくつかの主要なGHG削減技術を最速で拡大する必要があり、逆に、それらなしには化学産業は主要な気候変動リスクとなります。
  • 特に、化石原料からの脱却が進まない場合には、2050年には毎年4億トンものCCSのキャパシティが必要となります。
  • 川下産業において再利用、リサイクルや、GHG排出の少ない代替品に切り替える等のサーキュラーエコノミーが進むことにより、化学製品の総需要が2050年までに31%削減されることがあり得ます。
  • 一方で、化学製品の供給側においては、化石燃料・原料からの転換と、生産工程や製品廃棄時に排出される二酸化炭素を回収するCCSの拡大が必要です。
  • 化石原料から脱却するに当たって、化学産業はグリーン水素の最大消費者(2050年に世界需要の半分を占める)となり、エネルギー転換を実現するこの重要技術のスケールアップを促します。
  • これにより、安価で豊富な再生可能エネルギーを持つ開発途上国においては、低コストでグリーン水素を製造する一次化学品生産地としての経済的機会が生まれます。
  • 大気中の二酸化炭素やバイオマスからプラスチックを製造し、廃棄時の二酸化炭素を地中に固定化することにより、世界の化学産業は2040年代前半までにネットゼロを達成し、2050年にはGHGの吸収源となることもできます。
  • これらにより、上流での再生可能エネルギー・原料・化学製品の製造、サーキュラーエコノミー、廃棄物管理等の分野の合計で2,900万人の雇用を創出できます。しかし、環境・社会的なパーパスを求める高スキルの従業員を惹きつけるためには、化学産業は自らの事業を再定義する必要があります。
  • 既存生産設備の改修と新規生産設備の導入のために、2050年までに世界で約3兆ドルの累積設備投資が必要となります。

本報告書は、化学産業・関連産業・政策立案者が将来の道筋についての共通見解のもとで合意し、サステナブルな事業モデルへの移行を加速させることを目的としています。そのために、報告書の中では移行原則を定めた世界的憲章の制定や、ネットゼロ化学製品の市場を萌芽させるための有志企業連携(ファースト・ムーバーズ・コアリッション / First Movers Coalition)の結成など、システムを転換するための10の主要なアクションを提案しています。今回の報告書の著者は、モデルと解析の詳細を一般に公開しています。加えて、2022年10月10日には、移行を実現するために産業界、顧客、政策立案者、投資家が何を必要としているかを議論するためのオンラインディスカッションを開催する予定です(注3)。

Chad Holliday氏(DuPont元CEO、Shell元会長)は次のように述べています。「国際レベルで合意された気候変動目標に対して、産業界が迅速かつ現実的に行動を起こすことが必要です。化学企業の元CEOとして、私はplanet positiveな化学産業の実現は可能であり、今こそが業界の将来を再定義する極めて重要な瞬間であると確信しています。」

石井菜穂子氏(東京大学理事、グローバル・コモンズ・センター ダイレクター)は次のように述べています。「経済的繁栄を含めて、人類が依拠している複雑で相互依存的な地球システムの崩壊を回避するためには、社会・経済システムとライフスタイルを転換する必要があります。化学産業は、その製品の多くが現代生活のいたるところで使用されているため、果たすべき役割は極めて大きいのです。GHG排出をネットゼロにし、グローバル・コモンズへの貢献者となり、社会・経済システムをプラネタリ・バウンダリーズの中に戻す等、チャンスは明らかです。化学産業がそのチャンスをつかむために自らをどのように変革できるかについて、この報告書がその議論を深めるきっかけになることを願っています。」

Paul Polman氏(Unilever元CEO、SDGsの設計に貢献したビジネスリーダー・キャンペーン活動家)は次のように述べています。「サステナビリティに関する目標を世界で達成するためには革新的なリーダーシップが不可欠です。地球規模の問題を作り出すのではなく、解決することによって利益を得ようとする、積極的なビジネスリーダーを私たちは緊急に必要としていますが、この報告書は、化学産業に対して、まさにそれを行うよう明確に呼びかけています。この報告書は、化学産業がサステナブルな経済、気候変動対策、planet positiveなシステムを実現するための具体的な道筋を示しています。しかし、このような将来の道筋に沿った成長と価値を得るためには、化学産業はこれまでの化石原料依存から脱却する必要があります。この報告書は化学産業とそのバリューチェーンにとって、緊急かつビジネスに不可欠な対話の始まりとなるものです。」

Guido Schmidt-Traub氏(Systemiq社Managing Partner)は次のように述べています。「化学産業は現代経済をあらゆる面で支えていますが、パリ協定の目標を達成するためには、そのバリューチェーン全体に渡って深い変革が必要です。重要ことは、本報告書に記載されている実現可能性の高い技術を用いれば、こうした変革は十分に可能だということです。報告書にある政策立案者、産業界、投資家への提言は、実用的で実行可能なものです。Systemiq社とそのパートナーは、化学産業がネットゼロで自然に対してポジティブな経済の推進者となるための対話を支援いたします。」

 

(注1)https://www.statista.com/statistics/302081/revenue-of-global-chemical-industry/

(注2)プラネタリ・バウンダリーズ(Planetary Boundaries): 地球環境システムを安定化させている9つのプロセス(気候変動、生物多様性、窒素・リン循環など)について、人類が持続的に発展していくために超えてはならない限界値を定義しました。これを超えると大規模で不可逆的な環境変化をもたらすリスクが大きくなるとされています。
(注3)オンラインディスカッションには次のリンクから登録できます。https://www.eventbrite.co.uk/e/systemiq-center-for-global-commons-planet-positive-chemicals-discussion-tickets-412873484707

 

関連リンク

報告書の全文はこちらからご覧いただけます
Planet Positive Chemicals

Planetary threat or planet-positive climate solution? The chemical industry at a crossroads” (Systemiq社へのリンク)

 

 

 

 

 

 

2022年09月13日
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