グローバル・コモンズ・スチュワードシップ イニシアティブ
グローバル・コモンズ・スチュワードシップ(GCS)イニシアティブは、プラネタリー・バウンダリーの枠内で持続可能な人類社会を築くことを最終目的として、システム転換の道筋と道具を提示し実践を促進することを目指している。具体的には、各国がグローバル・コモンズへ与える環境負荷の程度と増減を測る「インデックス(包括的な指標開発)」、今世紀半ばまでに人類社会に必要なシステム転換の経路を示す「モデリング(社会・経済シナリオ分析)」と「社会経済システム転換の促進とモニタリング」、そしてこれらを統合してグローバル・コモンズの管理を実行可能な戦略的枠組みを構想する「フレーミング」という4つのワークストリームから構成される。さらにGCSイニシアティブを支える基盤の一つである「サイバー空間」に関するワークストリームを設けている。
GCSイニシアティブでは、各ワークストリームにおいて、研究と実践の点で世界的に高い実績を有する海外機関との強力なパートナーシップのもと活動を進めている。
■ 関連サイト
グローバル・コモンズ・スチュワードシップ フレームワーク(社会経済システム転換を駆動するための戦略的枠組み)
人類が共通の存続基盤として協調して守るべき地球環境(グローバル・コモンズ)とその責任ある管理のあり方(グローバル・コモンズ・スチュワードシップ)を体系化した戦略的枠組み。
本枠組みは、エネルギー、食料、都市、生産・消費という転換すべき4つのシステムと、システム転換を促進するための4つの共通要素やアクション・レバーからを中心に構成されている。 グローバル・コモンズを守るためには、多様なバックグラウンドを持つステークホルダーの協力による包括的なアプローチが必要であり、本枠組みでは、政府、企業、金融、市民社会、国際機関が取るべき行動指針を提示する。国際的なコンサルテーションを経て、東大CGCからのメッセージとして世界に向けて発信している。
本ワークストリームはEnergy Transitions Commission やFood and Land Use Coalition など有力な国際プラットフォームの事務局を務め、英国に本社を置くシンクタンクSYSTEMIQ社とともに進めている。
グローバル・コモンズ・スチュワードシップ インデックス(各国の環境負荷と責任を比較し、対応を促す総合指標)
グローバル・コモンズに責任をもつ各主体の環境負荷、目標達成度、改善努力を評価、インデックス化。ランキング等で国際的政策議論を惹起、政策の分析・評価・提言。
「グローバル・コモンズ・スチュワードシップ インデックス」は、科学的計測データのみならず、多地域間産業連関表など世界で利用可能な信頼できるデータを集計・分析することで、気候変動や生物多様性、土地利用など地球環境システムを制御し安定化する主要な要素(グローバル・コモンズ)に、各国がどの程度の環境負荷をかけているかを定量的に評価する包括的指標である。
国内での最終消費や輸出のための国内生産によるグローバル・コモンズへの影響を「国内負荷」として評価するとともに、国内最終消費のための輸入により国外でグローバル・コモンズに与える影響を「越境負荷(スピルオーバー効果)」として評価した。これは国外での環境負荷も、最終消費国が一定の責任を負うという考えに基づく。これらの「国内負荷」と「越境負荷」の評価を比較することで、グローバル・コモンズへの負荷が国内、および財やサービスの貿易を通じて国外でどの程度発生しているかを可視化する。GCS指標は、気候変動だけでなく、多様なグローバル・コモンズへの影響を捉える国ごとの「成績簿」であり、地球環境保全のために国によって重点的に取り組むべき領域を示し、国際的な政策対話を促すことが期待できる
本指標は「持続可能な開発目標(SDGs)指標」を発表している国連持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN: Sustainable Development Solutions Network)および環境分野で世界的に定評のあるEPIを発表している米国イェール大学環境法・政策センターと共同で開発している。
■ 関連サイト
Global Commons Stewardship Index 2022
Global Commons Stewardship Index 2021: Public Consultation
https://www.unsdsn.org/global-commons-stewardship-index-2021-public-consultation
【動画】グローバル・コモンズ・スチュワードシップ指標の開発
https://youtu.be/Lzt0v0WUcw4
OECDの書籍におけるグローバル・コモンズ・スチュワードシップ指標の紹介
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/articles/z2101_00042.html
グローバル・コモンズ・スチュワードシップ指標 (Global Commons Stewardship Index:GCSi)のプロトタイプ版レポートが公開になりました
https://ifi.u-tokyo.ac.jp/news/8439/
グローバル・コモンズ・スチュワードシップ モデリング(2050年までのシステム転換の経路を示す社会経済シナリオ分析)
GCSイニシアティブでは「エネルギー」「食料」「都市」「生産・消費」の4つを転換すべき重要な社会経済システムと捉えている。本モデルでは、統合評価モデル(IAM)を用いて、2050年目標に向けて必要なシステム転換とその効果を包括的・統合的に算出することを目標としている。具体的には、4つのシステムの転換を進めて人為的環境負荷を減らすことにより、グローバル・コモンズの保全にどの程度貢献しうるか。気候システムや食料供給の安定化などを通して、我々の社会生活でどのようなフィードバックを得ることができるか。このような社会経済システムと地球環境とのダイナミクスについて、統合的数値モデルを用いてシナリオ分析を行なっている。これまで、プラネタリー・バウンダリーの枠内で2050年までにSDGsを達成するために必要な社会経済システムの経路とその効果を定量的に示した(Soergel et al., 2021)。
本ワークストリームはプラネタリー・バウンダリーを提唱したヨハン・ロックストローム教授が率いるドイツのポツダム気候影響研究所を海外パートナーとして分析を進めている。
システム・チェンジ・ラボ(グローバル・コモンズの責任ある管理の実施状況のモニター)
2050目標達成のために転換が必要な6つの経済セクターとそのシステム転換の進捗のスピードをモニターしている。2021年は、システム転換の現状を評価する「気候変動対策の現状2021: 地球温暖化を1.5℃に抑えるためのシステム転換(State of Climate Action 2021: System Transformation required to limit global warming to 1.5 ℃)」報告書を発表した。本報告書では、重要なシステム転換の進捗をモニターするために特定された40の指標うち正しい方向に正しい速度と規模で転換している指標は皆無であった。8の指標については正しい方向への変化が確認される一方その速度が不十分であったり、17の指標についても正しい方向に変化しつつもそのペースが大変遅いことが明らかになるなどシステム転換の遅れが顕著であることが示されるなど、共通のゴールに向かってシステム転換を大きく加速化させる必要があることが明らかになった。
本ワークストリームは、サステナビリティ関連のシンクタンクとして世界的に著名であり、Global Commission on the Economy and Climate、Adaptation Commission、High Level Panel on Oceanなど国際的なプラットフォームを主宰する米国ワシントンDCの世界資源研究所(WRI)とともに進めている。
■ 関連サイト
「気候変動対策の現状2021: 地球温暖化を1.5℃に抑えるためのシステム転換(State of Climate Action 2021: System Transformation required to limit global warming to 1.5 ℃)」報告書(英語のみ)
https://www.wri.org/research/state-climate-action-2021