基本的なコンセプト
グローバル・コモンズ:完新世における地球システムの安定と自己回復力(レジリエンス)
人類文明の前提条件は、約1.2万年前に始まった完新世(Holocene)における地球というシステムの極めて安定的で自己回復力の高い状態でした。この完新世における地球システムの安定と自己回復力(レジリエンス)こそが、人類社会の持続可能性を支える最も大事な共有財産:グローバル・コモンズです。
このグローバル・コモンズは、物質・エネルギーの循環と生物活動の複雑かつ絶妙なバランスで成り立っており、そのバランスが崩れると(臨界点/Tipping Pointに達すると)不可逆的に損なわれ取り返しがつきません。それは、私たちの社会・経済の持続可能性が永久に失われることを意味します。
このグローバル・コモンズのバランスを支える9つの地球のサブシステムを特定し、それが損なわれる限界値を示したものがプラネタリー・バウンダリーです。既に、生物多様性の喪失や窒素・リンの循環が限界値を大きく超え、また気候変動や土地利用の変化は危険域に入っています(図参照)。人間活動に起因する大量の温室効果ガスや化学物質の排出、開発、乱獲などでグローバル・コモンズは深刻な危機に陥っており、それが永久に損なわれる臨界点はすぐ目の前に迫っているといえます。
私たちは、このグローバル・コモンズの性質と人類にとっての致命的な重要さを直視しなければなりません。その危機の回避には、脱炭素化に加えて、化学物質排出の削減、森林や海洋の保全など、地球の安定と自己回復力を脅かす主要な環境負荷を取り除くことが必要です。
グローバル・コモンズ・スチュワードシップ:社会・経済システムの転換
私たちすべてが、自らと同胞、未来の世代のために、人類社会の持続可能性の根源的な基盤であるグローバル・コモンズをきちんと管理する責任「グローバル・コモンズ・スチュワードシップ」を果たさなければなりません。それはグローバル・コモンズを脅かす環境負荷を生む今の社会・経済のシステムを、地球規模で根本的に転換することを意味します。
そこで焦点を当てるべきシステム転換(System Transformations)には、以下のものがあります。
- エネルギー・システム:
エネルギーを脱炭素化する。 - 食料システム:
持続可能な食料生産方法(土地利用、化学肥料・農薬、淡水、水産資源管理などの転換)。食品廃棄・ロス・排泄物の削減・循環。環境負荷の低い食生活への移行。 - 生産/消費システム:
資源の採取・加工・使用・廃棄という直線的な生産/消費システムを循環的にする(Circular Economyに移行)。 - 都市システム:
都市域で、経済活動と生活のシステムを転換し、上述の3つのシステム転換を実現する。
これらシステム転換には、様々な社会的駆動要素(Action Levers)を動員する必要があります。例えば;
- ガバナンスと政策:
グローバル・コモンズを守るための政策とその決定プロセスが必要です。そこでは、多様な経済主体の縦横の連携が有効です。 - 金融・経済制度:
市場機能は、システム転換に極めて有効です。特に、カーボン・プライシングなど環境負荷(外部経済)を内部化する財市場の仕組み、危機克服に向けた資源配分を促す金融市場の機能が重要です。 - 社会的調和(包摂、衡平、公正な移行):
グローバル・コモンズという人類の共通利益のために世界の様々な立場の人々が協調するには、社会的調和と信頼が前提として必要です。 - 信頼できるデータとデジタル技術:
すべてのステークホルダーの正しい意思決定と効果的な行動を促すには、その基盤となる情報・データの信頼性と透明性が必要です。
CGCでは、このシステム転換と社会的駆動要素のあり方を探求し、その実現に向けて多様なステークホルダーと連携して行きます。
■ グローバル・コモンズ・スチュワードシップの枠組み
注)グローバル・コモンズは、「完新世における地球システムの安定と自己回復力」ですが、ここではそれを支える6つの重要な部分を提示しています。